蒼 穹

 01. 斜陽

 宇宙空間を、真っ黒な物体が横切っていく。

 何十年も前に打ち上げられた人工衛星。宇宙塵によってぼろぼろに傷ついたボディに文字らしきものがあるが、もはや読み取ることはできない。突き出したアンテナの先が一瞬、ちかっ、と光った。どうやらそれが最後の力だったらしい。ゆっくりと軌道を外れ、地表に落ちていく。やがて大気と摩擦を起こしたそれは、洋上で華々しく燃え尽きた。

 西向きの大きな窓からビルの間に沈む夕日のオレンジ色の光が入ってくる。西向きだから真夏は暑くてたまらないが、夏のおわりの夕暮れは空気も澄み、夕日はちょっぴり物寂しい。

「好きだなあ、この時間、この景色。おセンチな俺にぴったりじゃんか。ひと仕事終えたあとのビールがまた最高だぜ!」
 瓶ビール片手に物憂げに目を閉じ、柄にもなく、「斜陽、か」なんて呟いてみたりする。と、その時。カンカンカンカン……
「ん?」
 誰かが外の金属階段を駆け上がってくる。仕事場のシャッターは閉めてしまって『本日終了』のプレートを出してある。よほど急用のお客でもなければ、工場主の彼の自宅まで階段を駆け上がってきたりはしない。急のお客でないとすれば――
「おまえかよ」
 カギのかかっていないドアが外からばっと開けられた。
「おいおい。ドアを開ける時はちゃんとノックしろよ。どういうしつけをされてんだよ。まったく!」
「カギかかってたらノックしようと思ってた」
「どんな理屈だよ!!」




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